2021年05月10日

群馬に遠征

ヒメギフチョウの保全団体「赤城姫を愛する集まり」のMさんにお願いをして、加古川の里山・ギフチョウ・ネットから4名、保全活動の実態視察と、お互いの情報交換・交流を目的として遠征。渋川駅では新横浜から先行してくれたYTさんがレンタカーを準備して待っていてくれ、京都から数本早い電車でついていたKさんと4名がそろう。Mさんとの落合場所となっている深山バス停を確認してから
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赤城キャンプ場へと走り、
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フデリンドウやタンポポが咲く草原で越冬明けのキタテハやC-タテハを観察しながら朝食タイム。
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Mさんと落ち合う約束の深山バス停へと戻るとご夫妻で予定より早い12時45分に待っていてくださる。再びキャンプ場へと向かい、
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キャンプ場から山肌へと入る途中の谷筋には複数のスギタニルリシジミが飛び交い、
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ヒトリシズカが多い小道を登り始めると、そのすぐ上の山斜面からウスバサイシンがまさに点在していて、登山道のあちこちに、地元小学生が各自の思いをこめた絵を描いて「ヒメギフチョウとウスバサイシンを大切にしよう、とらないで」という立て看板がみられ、裏には、制作した児童の名前と年月日が記されている。
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年代が古い看板は色あせて見えにくくなってしまっているが、子供たちの熱い思いはいつまでも残る。所々、白い紙がぶら下がった棒が見えるが、それには5月8日12卵、などの記述がある。本日午前中に調査された証だ。高くしてあるのは周囲の植物が生育して見えなくなるための工夫で、加古川でこのような目印をすればすぐに持っていかれてしまうが、この保全団体の考えは、持っていかれるのは悲しいが、どの卵がいつ頃どれだけ盗まれたかを知ることができるだけでもデータにはなり、それも仕方がないことだと。それにしてもウスバサイシンの生え方がまさにポツンと一軒家てきにまばらでしかみられなく、ヒメカンアオイのように群落を形成してはいない。これでは産卵調査の労は大変なものがあると実感。青緑色のネットで囲った部分には、4年をかけてふもとで生育させたウスバサイシンをいくらかまとめて移植して管理をしており、
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別途飼育して育てた越冬蛹を離した囲いもある。チョウの保護のためには森林環境も大切だとしってもらうために、針葉樹林から広葉樹林へと置き換えるためにドングリを植えて苗から育てるという試みもされている。
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 これらの場所へと案内をしてくださる過程で、ウスバサイシンへと飛来して産卵行動を見せるヒメギフチョウも観察できるが、むやみに接近すると、足元のどこに生えているかもしれないウスバサイシンを傷めるため、撮影は離れた位置からの望遠モードのみ。
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というわけでこの日のビデオ撮影記録もフォーカスが甘いのは仕方がない。YTさんによる一眼レフカメラによる撮影画像を拝借して並べると、その差が顕著。
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最後に、ウスバサイシンの移植には4年間をかけて育てた苗でないと現地山斜面には根付かないため、ふもとにある赤城歴史資料館の一部で市の女性職員の力を借りて種から育てているという場所にも案内をしていただく。人為的に4年をかけて育てたウスバサイシンは葉っぱが大きく、
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これらで幼虫を飼育して蛹にまで育ててから山に戻しているわけで、ヒメギフチョウの保全活動の並大抵ではない苦労を見せつけられた。
 2日目の5月9日は朝早くの方が山頂部でヒメギフチョウが観察しやすいとのMさんからのアドバイスを得て、モロコシ山の山頂部を目指す。およそ5km、標高差200mというきつい登りは、つづら折り状態で延々と続く。
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途中には足元のスミレ以外に花はなく、ときには深い落ち葉を踏みしめる形で進み、YTさんが「山の歩き方」から学んだという歩幅をせまくして歩くと疲れない、を実践しながら約1時間、到着した8時半頃の山頂部の気温は18度で、やがて南斜面に太陽光がとどくと、ヒメギフチョウが飛び始める。ヒメギフチョウがときどき翅を広げて休むのは急峻な斜面の落ち葉上。ミズナラの木の根元で幹に背中をつけて足場をかためての撮影がやっとだという状況で、
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ヒメギフチョウがとまったからといってその撮影がかなう場所への移動は容易ではない。山頂部の山斜面一帯は、ミズナラの樹がまだ新芽をつけたばかりで林床が明るく、雲さえなければ日当たりがよくて、ヒメギフチョウ2個体による絡みの飛翔や、ときには3重連となった飛翔をみるが、肉眼で見たとおりにビデオでの記録は取れていなくて残念。2個体が絡みながらすぐ目の前を横切った場面でもフォーカスの合った記録にはなっていない。
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飛翔個体を連射撮影するYTさんが、撮影記録をチェックして「よっしゃー!空を背景にした絵が撮れた。これでよし!」と声を上げる。ちょうどハイキングで山頂部にやってきていたカップルが、その映像記録をみせてもらって感心しているが、
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腰をかがめて斜面から滑り落ちそうになりながら連射撮影をする姿にも驚いたに違いない。
 TTさんは落ち葉が多い山頂部で地肌が目立つ場所に違和感を覚え、よくみればそこには数少ない花としてスミレが咲いており、この花で吸蜜するヒメギフチョウ狙いで複数のカメラマンが待機した痕跡だとみぬいていたのはさすがだ。
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雲が多くなるとヒメギフチョウの活動はピタリととまって全く姿がみえなくなる。ここではとまってくれても落ち葉の上でしかなく、できればカタクリやフデリンドウでの吸蜜シーンをみたい。というわけで、太陽が大きな雲にかくれて出てこない時間が長かったりして、Mさんから聞いているカタクリの花が咲く場所へと移動する。ちょうどそのタイミングでMさんから下の分岐点でまっているとの連絡が入り、Mさんご夫妻、赤城姫を愛する集まりの常連さんたち、地元の高校生、群馬県の気象関係の職員、たまたま別件でパトロール中のところを同行して下さった群馬県地域創生部文化財保護課の職員という総勢7名と合流。カタクリの花は3輪ほどしか残っていなく、
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気温も上がらないためヒメギフチョウは現れず、エンレイソウやアズマイチゲも咲いているのを撮影記録しながら、
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第二ピークへと登り、少し開けた尾根筋でお互いの情報交換の時間をとる。
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登山の開始時に車において行こうかと取り出した上着を、TTさんが山頂部で必要になるかもしれないから持って行った方がいいとアドバイスしてくれたことが幸いとなるほどに、冷たい風も吹き抜け始める。高砂を出発する直前に出来上がって届いた、ギフチョウの保護20周年記念冊子の第3改訂版と、カラー簡易図鑑「加古川のチョウ」第4改訂版を7名に受け取っていただき、パワーポイント作成の資料でTTさんからギフチョウ・ネットの活動状況について紹介。Mさんからは参加くださった5名の紹介と、5月4日に開催した自然観察会にはコロナ禍で大変な時期でも約40名の参加で盛会だった話などがあり、筆者がヒメギフチョウ以外のチョウについて質問した際には、群馬県で天然記念物に指定されているオオイチモンジに関して、最新発行の機関紙「赤城姫」に写真で示すまでに、地元には全く標本が残っていなくて、いろんな関係者をたどって調査を重ねた結果、鳥取県立博物館に1頭の標本が残っている事実にたどりつけたという、関西のTV番組で人気のある「探偵ナイトスクープ」に取り上げてもらってもよさそうな、大変な苦労の経緯を聞かせていただく。この機関紙「赤城姫」には加古川の里山・ギフチョウ・ネットについての紹介記事も載せていただいたことがあるが、1988年の創刊から毎年欠かさず発行されていることはすごいことである。最後に、記念の集合写真を撮ったあと、現地の方はまだ産卵調査などがあるからと残り、この場所へのヒメギフチョウの飛来は期待薄だということでわれわれ4名は下山。
 降り立ったキャンプ場周辺では晴れてきており、昼食を済ませてスギタニルリシジミがいた沢へと向かう。期待通り、♂2個体の飛翔が確認でき、ミヤマセセリとの追飛翔もみる。小さな本種の飛翔はすばやく、うっかりしているとその姿を見失ってしまうが、幸いこの湿地帯に執着してくれていて、やがてどこからともなく舞い戻ってくる。湿り気のある部分にはホウノキの大きな葉っぱも落ちていて、偶然その湿った葉っぱ上で吸汁し始める個体もいてその撮影を楽しむ。
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静止状態では開翅してくれないため、飛び回る個体をビデオカメラで追いかけ、その撮影記録から翅表の特徴的な青色をとらえられている部分を探してみる。
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 他の3名はスギタニルリシジミよりもヒメギフチョウの方が大事とみえ、ウスバサイシンが点在する崖斜面を探索している。やや遅れて続いた筆者の目の前にヒメギフチョウが現れ、いかにもウスバサイシンに産卵をしたいような動きを見せる。予想は的中してウスバサイシンの葉裏への産卵が始まり、その間は徐々に接近していっても飛び立つことはないため、4名がそれぞれカメラを向けて迫る。
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カメラアングルをもっと下げて産卵中の尾端が見える撮影記録をとろうとしたそのとき、上の位置から撮影をしていたメンバーが撮影の邪魔になる枯れ枝を動かそうとしてチョウを驚かせ、あっという間に飛び去ってしまう。結局、産み付けられた卵は4個だけ。この撮影をしている間に、山で別れたSさんとI君がやってこられ、ウスバサイシンへの産卵調査を始められる。細長い棒に括り付けた白い紙に一度記入された産卵数の再確認もされていて、5/7 12卵と記された下に5/9 なし、と追記されたものは、卵のついた葉っぱが誰かに持ち去られたというデータで、
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いったいどんな輩の仕業なのかと腹立たしくなる。
 天候は徐々に悪化する傾向のため当初の計画を早めに切り上げ、JR渋川駅のみどりの窓口で列車と座席指定の変更をして帰路に就く。
posted by クジャクチョウ at 10:00| Comment(0) | 日記

自然観察ノート